創発という視点

ちょっとお仕事関係で読んだ本です。ネットワーク科学、具体的にはいくつもの研究事例をベースに、スモールワールド・ネットワークについて書かれた本です。

複雑な世界、単純な法則  ネットワーク科学の最前線

複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線

著者がジャーナリストなので、発表された論文やそれに関連した事例、取材成果などをベースに書かれており、全体としてネットワーク科学の初心者でも読めて内容も理解できる本になっています。スモールワールドがどのようにして発見されたか。また、どのようなシステムや現象にスモールワールド性があるのか、具体的に言葉をつくして紹介されています。とくに、研究同士のつながりや、現状同士のつながりに注意して書かれているなぁという印象を持ちました。翻訳も、わりと自然ではないかなぁと思います。

スモールワールド・ネットワークというと、次の2つの本が代表的だと思います。いずれも、スモールワールド研究の代表者ですから。本書では、それぞれの本の著者が発表した、2つのスモールワールドを、「平和主義的ネットワーク」と「貴族主義的ネットワーク」と切り分けているのは、いい説明だなぁと思いました。言葉(ラベル)がきちんと意味を表しているなぁと。

スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法

スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法

  • 作者: ダンカンワッツ,Duncan J. Watts,辻竜平,友知政樹
  • 出版社/メーカー: CCCメディアハウス
  • 発売日: 2004/10/01
  • メディア: 単行本
  • 購入: 2人 クリック: 73回
  • この商品を含むブログ (82件) を見る
新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く

新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く

研究的には、スケールフリー性を備えた「貴族主義的ネットワーク」が注目されているような気がします。本書も、社会ネットワークや自然現象の中に「貴族主義的ネットワーク」が数多く見られることを紹介しています。面白いのは、スモールワールド研究の最初である「平和主義的ネットワーク」が、「貴族主義的ネットワーク」を時間的に進めていった先にも登場してくるのではないか、という指摘の部分です。例えば、進化の先に行き着いた脳のニューロン・ネットワークのように、ネットワークが時間的に成熟しきった段階では、自然と「平和主義的ネットワーク」に移り変わるのではということなのです。

あともうひとつ面白かったのは、スモールワールドをきっかけとする、ネットワーク科学という視点の重要さを、丁寧に説いている箇所でした。最近、やたらと「創発」という言葉を見聞きするのですが、その「創発」という視点の重要さを、改めて認識したような気がしました。